名誉男性がシスターフッドに目覚めるまで。考察:『この世界の片隅に』

こうの史代『この世界の片隅に : 下』

こうの史代『この世界の片隅に : 下』

第二次世界大戦中の広島県呉を舞台にした家族の物語、『この世界の片隅に 』

圧倒的な力で人々を飲み込んでいく戦争。生活の厳しさにあえぎながらも、日々の幸せを愛おしみながら支え合って生きる人々の優しさを描きます。

しかしこの作品、ただのほのぼのマンガではないんですよね。けなげな笑顔に隠された弱者の残酷さやズルさを、冷ややかなまなざしでえぐり出してもいるのです。

Kindle Unlimitedのライブラリでおすすめされて何気なく読んだ『この世界の片隅に 』。丁寧に読むととんでもなくて、この2日間で4回くらい連続で通しで読んでしまいました。

せっかくなので今までにわかったことをシェアしてみたいと思います。

SPONSERED

内側からイエ制度を破壊する

イエ制度での居場所を模索していたすず。敗戦をきっかけに国家およびイエ制度に疑問を抱くようになり、自分なりの”正義”を新たに模索するようになります。

と言っても、この頃の女性にとって自立は経済的にも社会的にも難しく、正面切っての拒絶は不可能。しかしすずは戦争孤児の女の子を養子に迎え、最後は嫁ぎ先である北條家を出来る限り縮小に導くんですよね。

すず「そんとな暴力に屈するもんかね」

こうの史代『この世界の片隅に : 下』

紙のはがれた障子の枠は、中身を失ったイエ制度。このセリフを言った時点での”暴力”は、敵国であるアメリカの攻撃を指しています。この絵は、もう日本の負けは決まっているのに勝てると信じこまされている人々を象徴しているんですね。

しかし同時に、これからすずがイエ制度にぶら下がりながらも、出来る範囲で制度に抗っていく未来も暗示しているんですよね。はしごを逆向きにのぼる不安定な足場は、すずの経済的社会的自立がともに難しいことを表しています。

はじめは戦争を肯定していたすず

戦争に勝つことが正義だと信じていた頃のすずは、男の子を産むことでイエ制度に貢献しようとしていました。戦争で死んでしまう夫の代わりに、アトトリを産まなければと思っていたんですね。

すず「ほいでも 世の男の人は みな戦地で命懸けじゃけえ こっちもギムは果たさんと」

リン「ギム?」

すず「出来の良えアトトリを残さんと

それがヨメのギムじゃろう」

こうの史代『この世界の片隅に : 中』

しかしリンとの会話が進むにつれて、次第にイエ制度の中で子を産むことの暴力性がむき出しにされていきます。お眼鏡にかなう”アトトリ”が生まれるまで子を産み続けることは、余った子どもを戦場に送ったり、遊郭に追いやることにつながります。

リンが遊女になったのは、実家が子だくさんで貧乏だったために、口減らしのために子守りとして売られたことがきっかけでした。

リン「女の方が高いけえ アトトリが少のうても大丈夫じゃ

世の中巧う できとるわ」

こうの史代『この世界の片隅に : 中』

すずの幼馴染の水原も、家が貧しかったから海軍兵学校に入ったり、志願兵になったと言っています。すずの兄もまた、軍隊に入り戦死しているんですよね。↓

水原「のう すず

兄ちゃんは うちが貧乏じゃけえ 海軍兵学校へ入った

当たり前の理想じゃ

わしは兄ちゃんが死んだけえ 代わりに海軍志願兵になった

当たり前のユメじゃ」

こうの史代『この世界の片隅に : 中』

リンや水原とのやり取りをきっかけに、すずの心に「自分のしていることは正しいのか」という揺らぎが生じます。

SPONSERED

敗戦で正義を見失う

ラジオから流れる敗戦の知らせを聞いて、すずは激昂します。実際に戦場に行くことはなくても、気持ちの上では戦士として戦っていたんですよね。

すず「そんなん覚悟のうえじゃないんかね?

最後のひとりまで戦うんじゃなかったんかね?

いまここへまだ五人も居るのに!

まだ左手も両足も残っとるのに!!」

こうの史代『この世界の片隅に : 下』

正義だと思っていた日本の負けを知ったとき、すずは自分たちが今まで暴力で従えられていたことに気付きます。そしてそれは、すずの中でイエ制度の正当性が失われた瞬間でもありました。

リン「だれでも この世界で そうそう居場所は無うなりやせんよ」

すず「そうかな?」

こうの史代『この世界の片隅に : 下』

リンは口では「誰でもそうそう居場所はなくならない」と言っていましたが、実際は遊郭で搾取されズタボロに使い捨てられる立場に追いやられていました。すずが居場所を欲しがっていたイエ制度は、実は女を分断する装置として機能していたのです。

子どもを一人売春から守り北條家を途絶えさせる

敗戦に憤るすずを優しくなでるリン。右手は「戦争で失われたもの」の象徴、つまりリン(と晴美)のメタファーでもあります。↓

この右手がつづる物語の中で、すずとリンは溶け合いながらそれぞれの夢を実現し、のちにすずの養子となる戦争孤児の女の子へと収束していきます。

すずはリンに導かれ、新たなイエの犠牲者を生み出さない方向に舵を切っていきます。

↓紅でつづられる、リンの子どものころのエピソード。紅は遊女(リン)の象徴。

右手… どこで何をしているんだろう

こうの史代『この世界の片隅に : 下』

リンはパラレルワールドで、念願だった教育と居場所を得ます。右手(リン)はすずと融合し、絵と字を描く能力を獲得し、すずに手紙を送ります。

彼女は戦争孤児の女の子の母親ですが、リンとすずを融合したような存在。「水原と結婚したすず」と「周作と結婚したリン」の両方を体現しています。

しかし原爆で彼女は右手を吹き飛ばされ、子どもを残して死んでしまいます。

すずは彼女を養子にすることで、北條家における自分の居場所を確保し、間接的にリンを救います。身寄りのない女の子は、かつて奉公先から逃げ出したリンの子どもの頃の姿と重なります。同じ境遇の女の子に居場所を与えることで、リンの無念をはらしているのです。

また、戦争孤児の女の子を養子にすることは、すずにとって二つの意味を持ちます。

・新たなイエの犠牲者を出さないこと。

・北條家の”アトトリ”を生まないこと。

真正面から制度に抗うことは出来ないかも知れないけど、すずは女の子を養子に取ることで新たな悲劇が生まれる(子を産まされる)のを未然に防ぎ、また北條家の名を途絶えさせるルートを開いたのです。(時代的にみんな結婚するので、子どもが女の子一人だけだと北條家を継ぐ人はいなくなる)

以前読んだという人も、ゼヒもう一度読んでみて下さい! 読み返すたびに新たな発見がある本です!

SPONSERED

Kindle Unlimitedに登録しよう

Kindle Unlimitedに登録すれば、月額980円で200万冊以上の本が読み放題に!

月替わりで本が入れ替わるので、いつか買おうと思っていた本が入ってくることも多いです。うちは子どもの分も合わせて少なくとも月5、6冊はKindle Unlimitedで借りているので大助かりです。

あと趣味としての読書以外にも、たとえば何か調べものをしたいとき、入門者用の本が豊富なのも地味に◎。なんでもいいから何冊か目を通して把握したいなんてときに、Kindle Unlimitedに入っておくと学ぶチャンスを逃さなくて済みます。

初月無料でいつでも解約できるので、本好きの人はゼヒ1度試してください!

寝る前の読書にはPaperWhiteがイチオシ

読書したいのに時間がない! そんなあなたにはKindle PaperWhiteがオススメ!

ベッドの中で本を読んで、そのまま寝落ちするのが私の日課。Eインクなので不眠の原因になるブルーライトを発っさず、日中のパソコン作業で疲れた目にも優しい。

どの機種を買うか迷ったら、バックライト付きのKindle PaperWhiteをどうぞ。防水なのでお風呂でも読めるし、軽くて長時間持っても疲れにくいし動作もサクサクです。

私は安くなるので広告付き、Wifiモデルにしました。容量は念のため32GBにしましたが、8GBでも充分だったかも。